【経営コンサル】製薬企業の早期退職について
こんにちは、中小企業診断士の諸岡です。
ここ近年、製薬企業において「早期退職優遇プロジェクト」たるものが流行り?なのか、各社スリム化を果たそうと動きを見せています。
今朝のニュースでは「大正製薬HD早期退職募集に645名応募、従業員の7%にあたる」とのこと!
本日は、製薬企業の「早期退職」について綴りたいと思います。
製薬企業 早期退職
昨今、急に製薬企業の早期退職が動きを見せています。
2015年に田辺三菱製薬が600名規模で早期退職募集。
2021年にアステラス製薬が450人規模で早期退職。
2023年に塩野義製薬が300人規模で早期退職。
などなど。
多くは50代以上などが対象になっているようですが、ものすごい勢いで動き出しています。
私も20年近く某製薬企業でMR(医薬情報担当者)をやっていましたので、現場の雰囲気は何となくわかります。
私が入社してから10年~15年くらいは、医療機関にMRが訪問しないと「全然来ないじゃないか!」と医師からお叱りを受けていました。
「お宅の薬を使ってあげてるんだから、ちゃんと情報提供をして、お礼も言いに来い」とよく言われたものです。
それから、じわじわと各医療機関から「訪問規制」というものが作られ始めました。
「毎月第●週目の▲曜日だけ訪問してよい」や「事前にアポイントを取得して訪問する以外は訪問禁止」などです。
その結果、じわじわと医療従事者の方々もMRに来てもらいたいと思わなくなってきたような気がします。
そして最大の環境変化、コロナ禍を迎えて大きく変わっていったのでした。
コロナの影響
現場のMRにおいてコロナは営業活動に大打撃を与えました。
「医療機関に入ること自体がもはや罪」とまで思われるくらい、情報提供活動がそもそも禁止状態に入りました。
その当時は私は営業部門からマーケティング部門に映っていましたので、現場のMRの活動をどのように支援できるのか?どのような資材があれば良いのか?ということを考える部門におりました。
その頃から、ZOOMやSkypeといった「リモート面談ツール」が流行りはじめ、医師との面談もリモートを推奨になり、このやり方は各製薬企業同様に実施を促し始めたのではないかと思われます。
しかし、当時本部でその取り組みを管理していた私は、医師とのリモート面談がなかなか進まないことを痛感していました。
つまり、製薬企業と医師とのコンタクトが激減していったのです。
会うたびに「久しぶり」と言われるようにもなっていったことでしょう。
もはや「全然来ないじゃないか!」ではなく「なんで来てるんだ!」と言われるようになっていったのです。
しかし、問題はそこではないのです。
医療機関とのコンタクトが激減したにも関わらず、売上がさほど変わらなかったという事態がでてきたようです。(一概には言えませんが、企業によってはそういう傾向も出ていたようです)
医薬品市場
かつて製薬企業、特に新薬メーカーが開発する薬剤は「プライマリー領域」と呼ばれる領域の薬が多い印象でした。
花粉症や高血圧、脂質異常症、抗生物質などです。
この辺りは各社競合品が多く、MRがどれだけ宣伝するか、どれだけ医師の記憶に残る活動をするかで選択されることも多かったことかと思います。
なぜなら、ある程度どの薬を使っても、そこまで大きな効果や副作用の違いがないと思われていたからです。
したがって、「Share of Voice品目」(よく名前を聞くことで売れる薬)と言われていました。
しかし、医療費削減のあおりを受けて、政府が急激に後発品を推進させようと動き出した頃から、この辺りの新薬は一律後発品に切り替えられていき、先発メーカーとしては新たな領域の斬新な新薬を開発する流れになっていったのではないかと思われます。
そこで各社参入し始めたのが抗がん剤でした。
それから、現在では「希少疾病用医薬品」と呼ばれる、なかなか治療法がなかった疾患への新薬の開発が進み始めました。
例えば、「筋ジストロフィー」や「多発性硬化症」といった、重症な疾患で、医療機関にかからなければ治療が受けられない、でも治療の選択肢が豊富にあるわけでもないというような領域です。
これらの薬剤は「治療選択肢として患者さんのためになる」という「なくてはならない薬剤」なわけです。
薬価もかなり高いことが多いでしょう。
こういった薬剤はMRががんがん宣伝して売れるという薬剤ではありません。
必要な患者さんに提供される薬剤です。
したがって、あくまで私の感覚ではありますが、MRが医師に「使ってください」とお願いして処方される薬剤という位置づけではないわけです。
そうすると、MRって必要?という「MR不要論」的な議論が業界では叫ばれ始めてきたのでした。
今回の製薬企業の早期退職募集は、MR対象というわけではないでしょうけど、こういった市場における製薬企業の医療機関から求められるニーズが変わっていったことも背景にあるのではないかと予想します。
早期退職後
私は早期退職優遇制度に乗っかって退職したわけではありません。
自分で中小企業診断士として新たな人生に挑戦していきたいと思ったことが動機です。
私はいつの時代においても、新たな道に挑むことは非常にチャレンジングで良いことだと思っています。
今回早期退職に応じて新たな道を歩むことになる方も多くいらっしゃいますが、製薬企業で経験してきたスキルやノウハウは、個人的には世間一般的にもハイレベルなモノだと思っています。
1つの企業で定年まで全うすることも本当に素晴らしいことですし、私にはできなかったことです。
しかし、新たな人生を歩むこと、そのために努力を惜しまないことは私は素晴らしいことだと感じます。
今後の多くの製薬企業の益々の発展を陰ながら応援しつつ、退職された方々の新たな挑戦にも大いに力を受けますし、私自身も同じ立場として鋭意尽力して参りたいと考える所存であります。